水瀬いのりさんの歌詞をテキストマイニングにより数量化し、その特徴を分析・考察した記事の2回目となります。
本記事は、
・独自にコンセプトを設定し、設定したコンセプトを集計した場合の各声優アーティストの特徴分析
・水瀬いのりの歌詞特有の表現(「ありがとう」「大丈夫」「ひとりじゃない」「天体にまつわる語」)の比較分析
・その他の比較分析
となります。
コンセプトに見る各声優アーティストの特徴
分析概要
これまでは頻出語という1語のみを抽出し比較分析を行ってきましたが、本分析はいくつかの語をコンセプトに従ってグループ化し、コンセプトごとに集計・分析を行ったものです。
コンセプトは合計で22個を設定。
感情、時間、自然などの一般的な分類のほか、試行錯誤の上、歌詞のメッセージを伝える上で有用だと思われるコンセプトを独自に選定しました。
次に、全声優アーティストの歌詞をまとめたテキストデータから上位頻出2000語を通覧し、コンセプトに合致する語を振り分けていきました。
なお、文脈によっては意味が異なる抽象的な語(夢、好きなど)については、ひとつひとつ文脈を確認し、コンセプトに合致するもののみ集計されるようにしました。
また、動詞については、否定形になると意味が変わることを考慮し、活用形の指定も厳密に行いました。
コンセプトの説明及び代表的な語一覧
・コンセプト及びコンセプトの説明一覧
・コンセプト及びコンセプトの代表的な語
各声優アーティストのコンセプトTOP10
各声優アーティストごとにコンセプトを集計し、TOP10をグラフ化しました。
なお、「伝達・情報」については6人中5人が第1位、残り1人が第2位となり各声優アーティスト間でほとんど差がつかなかったため、重要性に乏しいと判断しTOP10からは除外しました。
水瀬いのりさんのTOP3は、第1位から順に「道のり」「前進」「連帯」となりました。
「夢や目標に向かってみんなと一緒に前に進んでいく」というのが大きなテーマでしょうか。
個人的には、いのりちゃんの楽曲から感じたイメージとぴったりでした。
「感情(プラス)」が第4位となっているのも水瀬いのりさんらしいですね。
第5位が「自然」となっているのは、前回の頻出語分析でも「空」が第2位となっていたように、「空」を含め自然をモチーフとしている歌詞が多いということでしょう。
小倉唯さんについて、前回の頻出語分析において恋愛を連想させる語が頻出しているという結果になりましたが、コンセプトにおいても「恋愛」が第1位となりました。
また、第2位が「感情(プラス)」となっていることから、恋愛の楽しさやハッピーな気持ちを歌った歌詞が多いのではないでしょうか。
「連帯」「前進」が上位にあるのも、ポジティブな恋愛が多いことを示しているのではないかと考えられます。
上坂すみれさんについては、「特殊語」が第1位で第2位以下と大きな差がついています。「特殊語」とは、前回の頻出語分析で上位に登場していた「呂布」「ツン」などの特殊な固有名詞をすべてグループ化したコンセプトです。
ある意味、上坂すみれさん専用と言っても差し支えないコンセプトですね(笑)。
第2位以下のコンセプトについては、第2位に「恋愛」がきていますが、同率第3位である「理性」から「前進」まで出現率の差が比較的小さくなっています。
上坂すみれさんの楽曲は何か大きなテーマを持っているというよりは、様々なテーマの曲を平均的に歌っているのではないかと推察されます。
内田真礼さんは、第1位が「前進」、第2位が「連帯」となりました。
水瀬いのりさんと同様、みんなと一緒に前に進んでいくという前向きなメッセージを多く歌詞にしているのではないかと考えられます。
ただ、水瀬いのりさんと違うのは、第3位が「環境」、第4位が「現在」となっていることです。
これらが意味するところは、未来に向かって進むというより、今この瞬間に周りの「世界」へ向かって飛び出していこう、そんなテーマなのではないでしょうか。
大橋彩香さんについて、小倉唯さんの場合と同様に「恋愛」が第1位となりました。
第2位が「前進」となっており前向きなメッセージが多いと考えられる一方、第3位は「理性」、第6位が「感情(マイナス)」となっています。
つまり、大橋彩香さんの「恋愛」は、悩みや考えることが多く、失恋的な要素も含まれているのではないかと考えられます。
早見沙織さんは、第1位が「理性」、第2位が「道のり」となりました。
この結果から考えられるのは、水瀬いのりさんや内田真礼さんのように、未来あるいは外に向かって進んでいくという前向きさではなく、自分の人生や道のりについて向き合い、自分の考えについて省みる内省的なテーマを歌詞にしているのではないかということです。
一方、「意志」が4位、「アプローチ」も9位に位置していることから、何かを達成するための心の在り方、人の内面を表現した歌詞が多い傾向にあるのではないでしょうか。
コンセプト全体から見る水瀬いのりの特徴
各声優アーティストのコンセプトTOP10を一つにまとめ、6人全体のコンセプトのTOP10から水瀬いのりさんの特徴について考察しました。
水瀬いのりさんのコンセプトTOP10のうち、他の5人の声優アーティストのコンセプトTOPと比較して最も順位の高いコンセプトは、「道のり」「自然」「明るいもの」となりました。
いずれも水瀬いのりさんらしいコンセプトであるといえます。
特に「道のり」は、水瀬いのりさん単体の順位だけでなく、6人全体の順位でもトップだったということで、とても納得のいく結果ですね。
「夢や目標」いうテーマが水瀬いのりさんの個性だということが改めて分かる結果となりました。
コンセプトごとの比較分析
この項目ではコンセプトそのものに着目し、コンセプトごとに特徴を分析しています。
分析方法ですが、まず、コンセプトごとの各声優アーティストの出現率の比較分析を試みました。ところが、延べ語数と異なり語数の関係やその他の要因により、適切な比較分析が困難であることが判明しました。
従って、例えば「明るいもの」「暗いもの」といった対立概念にあるコンセプトを設定し、同一の声優アーティストの中でそれらのコンセプトの出現率の割合を示すという手法を用いて、コンセプトの傾向を間接的に検証することとしました。
・「明るいもの」と「暗いもの」の比較
6人のうち、相対的に「明るいもの」の出現率が高いのは小倉唯さんとなりました。
つまり、小倉唯さんの歌詞の中で「明るいもの」を表現した歌詞と「暗いもの」を表現した歌詞の出現回数を比較した場合、80%以上は「明るいもの」となっていたということになります。
なお、小倉唯さん単体のコンセプトランキングでも「明るいもの」は11位となっていました。
水瀬いのりさんは76.4%で第2位。上記の項目ですでに述べたように、6人全体の順位においても「明るいもの」は最高位となっていたので、水瀬いのりさんの歌詞はかなり「明るい」といえます。
一方、「暗いもの」の割合は上坂すみれさんが一番高いという結果になりました。
・「出会い」「別れ」の比較
「出会い」の割合が最も高いのは小倉唯さんとなりました。
上坂すみれさん、早見沙織さんは「出会い」より「別れ」の方が割合が高く、「別れ」の割合が最も高いのは上坂すみれさんでした。
・「前進」「後退」の比較
「前進」の割合が最も高いのは内田真礼さん、「後退」の割合が最も高いのは早見沙織さんという結果になりました。
・「感情(プラス)」と「感情(マイナス)の比較」
「感情(プラス)」の割合が最も高いのは水瀬いのりさん、「感情(マイナス)」の割合が最も高いのは上坂すみれさんとなりました。
なお、上坂すみれさんは6人の中で唯一「感情(プラス)」よりも「感情(マイナス)」の割合が高いアーティストという結果になりました。
・「感性」と「理性」の比較
「感性」の割合がもっと高いのは水瀬いのりさん、「理性」の割合が最も高いのは上坂すみれさんとなりました。
・「過去」「現在」「未来」の比較
「過去」の割合が最も高いのは上坂すみれさん、「現在」の割合が最も高いのは内田真礼さん、「未来」の割合が最も高いのは大橋彩香さんとなりました。
水瀬いのりさんですが、上坂すみれさんに次いで2番目に「過去」の割合が高くなっています。これは感覚的な話ですが、いのりちゃんのバラード曲は、過去を振り返ったり思い出したりするノスタルジックな歌詞が比較的多い気がします。そのことが少なからず影響してるのかなと思いました。
・全体のまとめと水瀬いのりの特徴
水瀬いのりさんが本項目の分析において最も高い比率となったコンセプトは、「感情(プラス)」と「感性」でした。
つまり、水瀬いのりさんの歌詞は言い換えると以下のようになるかと思います。
①6人のうち、マイナスの感情よりもプラスの感情の方を最も多く歌詞にしている
②6人のうち、考えたりすることよりも感じることの方を最も多く歌詞にしている
①については、前向きさやポジティブを歌う水瀬いのりさんらしい特徴を表しているとえいます。
②については、いわゆる「考えるな、感じろ」というタイプが水瀬いのりさんの特徴ということでしょうか。
最後に、気になったポイントについて挙げていきたいと思います。
まず、上坂すみれさんについて。
割合が高かったコンセプトは「暗いもの」「別れ」「感情(マイナス)」「過去」「理性」となり、そのほとんどがどちらかといえばネガティブなイメージのあるコンセプトとなっています。
独特の世界観を持った上坂すみれさんの特徴を非常に端的に表しているといえるでしょう。
次に、「過去」「現在」「未来」について。
6人の声優アーティスト全員が、「過去」や「未来」よりも「現在」の割合が最も高いという結果でした。
あくまで相対的なデータなのですが、前回の記事でJ-POPの歌詞の分析サイトにもあったように、「今」を歌うことが大きなトレンドになっているといえます。
水瀬いのりの歌詞に特有な表現の集計・比較
分析概要
水瀬いのりさんの歌詞に特有だと思われる表現を集計し、その出現について他の声優アーティストと比較分析を行いました。
対象とした表現は以下の通りとなります。
・語…ありがとう、大丈夫
・フレーズ…ひとりじゃない(「一人じゃない」「ひとりぼっちなんかじゃない」「ひとりじゃなかった」のフレーズも含む)
・コンセプト…天体にまつわる語(星 、星空、星屑、夜空、流星、銀河、流れ星、惑星、星くず、星座、star)
ただし、語の出現は楽曲の数に比例して増加することが予想され、各声優アーティストの楽曲数や延べ語数が異なることから、単純に出現回数を比較するだけでは正確な分析ができないと考えました。
そこで、カイ二乗検定を行うことにより、出現回数が統計的に意味があるものかどうかを検証することとしました。
特有表現の出現に関するデータおよび分析
「ありがとう」「大丈夫」「ひとりじゃない」については登場回数、「天体にまつわる語」については、延べ語数に対する割合をグラフ化しました。
いずれのカテゴリーにおいても、6人中全てトップとなりカイ二乗判定の結果も全て「有意差あり」となりました。
「有意差あり」というのは、出現回数が偶然高かったわけではなく、統計的に意味のある差であることが証明された、ということです。
特に、「ひとりじゃない」については、他の声優アーティストを大きく引き離しています。
ご本人のインタビューでも「ひとりじゃない」ことについて言及していますが、統計的にも重要なフレーズであることが分かりました。
その他の比較分析
分析概要
この項目では、歌詞の中身ではなく主に歌詞の語数に着目した分析となっております。従って、今までの分析とは違いさほど重要性は高くないと思いますので、読み飛ばしてもらっても全然構わないです。
ほんとに参考程度という内容なので、暇な方はお付き合いよろしくお願いいたします(笑)。
1曲あたりの平均語数
1曲あたりどれだけの語が使われてるか、つまり、1曲あたりの歌詞の長さを示したものになります。
一般的に、曲のテンポが遅くなり音数が少なくなるに従って、音に乗せる歌詞も短くなる傾向にあります。
1曲当たりの平均語数が最も少ない早見沙織さんの楽曲は、シティポップを中心としたテンポがゆったりとした曲が多いため、他の声優アーティストに比べて平均語数がかなり少なくなっています。
水瀬いのりさんは早見沙織さんに次いで2番目に平均語数が少ないという結果になりましたが、水瀬いのりさんの楽曲も比較的バラード曲が多い傾向にあるのではないかと考えられます。
延べ語数と異なり語数の関係
延べ語数のうち、異なり語数が占める割合を計算しグラフ化しました。
異なり語数というのは、語の種類がどれだけあるかを示した数です。
この割合が大きくなる場合と小さくなる場合の歌詞にはそれぞれどのような特徴が考えらえるのか、以下の通り整理してみました。
・大きくなる場合
さまざまな言葉や表現が使われる。
固有名詞など具体的な語が多い。
楽曲のコンセプトが多岐にわたっている。
・小さくなる場合
同じ言葉や表現が何度も使われる。
さまざまな文脈で使用できる抽象的な語が多い。
同じようなコンセプトの楽曲が多い。
分析対象とした6人の声優アーティストの中で、水瀬いのりさんは異なり語数の割合が最も小さい声優アーティストであるという結果になりました。
つまり、水瀬いのりさんの歌詞は、上記に示した「小さくなる場合」のような特徴又は傾向があるのではないかと考えられます。
英語詞
テキストマイニングにより検出された語のうち、すべての英語を集計し延べ語数に対する割合を示したグラフです。
6人のうち、水瀬いのりさんは4番目に英語詞が少ない、逆に言うと3番目に日本語の歌詞が多い声優アーティストである、という結果になりました。
まとめ
水瀬いのりさんの歌詞について、本分析で分かったことを以下にまとめます。
・歌詞のコンセプトTOP3…第1位から順に「道のり」「前進」「連帯」
・6人の中で最も特徴的であるコンセプト…「道のり」「自然」「明るいもの」
・6人の中で、マイナスの感情よりもプラスの感情の方を最も多く歌詞にしている
・6人の中で、考えたりすることよりも感じることの方を最も多く歌詞にしている
・「ありがとう」などの特有表現…6人の中で全てトップの出現率及び有意差あり
次回は
水瀬いのりのアルバム発売日までの楽曲を一区間とした期間比較及び頻出語の文脈分析
についての記事になります。